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<ノベル>
〜類はトモを呼ぶ?〜
「……お兄様退治って、何でしょうかね?」
女性ばかりが乗っているオーガアイランド行きの臨時定期船の上でウルクシュラーネ・サンヤは嶋さくらに問いかける。
「わたしに言われても困るわよ。私としては謎が解ければそれで十分ね……あなたはどんな目的できたの? ここにいる他の子達とは違うのは確かなようだけれど」
さくらは『探偵JK』の小説を読みつつ答えた。
男性であるウルクがイケメンを好んでくるということは……あまりない。
そういう耽美な展開もアリといえばアリなのだがとさくらは思ったとか思わなかったとか。
「いや、忍びのアイトニーとメラトが気になるからというから来たのですが……」
ウルクは何事もないように背後を見る。
人の姿はなく、ウルクの影だけがあった。
「忍びって忍者のことかしら? それともあなたの世界では別の意味でも?」
普段聞きなれない言葉にさくらの興味がむいて『探偵JK』の小説に栞を挟んで閉じる。
「異形のものをそう呼ぶんですよ……こちらの世界でいう鬼もその一つでして、二人とも挨拶をしなさい」
ウルク命令をすると影がぬぅっとふくらみ、一本角の鬼であるアイトニーと二本の角を生やした鬼少女、メラトがぼりぼりと豆を食べながら軽く会釈をした。
「二……人は豆が好きなの?」
鬼をなんと数えていいのかさくらは悩んだが、それよりもイケメンが苦手な豆を先に食べているという方が気になる。
「大丈夫です、まだ3袋はありますから」
「あなたも豆好きなのね」
にこやかにいり豆を出すウルクを見てさくらは苦笑した。
「あ、島が見えてきたわ……桃太郎の鬼が島そっくりね」
ウルクと雑談をしている間も船がすすみ、噂のオーガアイランドがよく見えるところまで近づく。
絵本で見る鬼が島そっくりな島だ。
「ここにいる女性達には悪いですが、上陸前に敵を散らしておきましょう」
ウルクが手に持っている豆を後ろに持っていき、自分の影の上へと2袋落とす。
影がぬっと盛り上がり、鴉の羽が生えているシャーリィエが飛び出すと豆を掴んで空へと羽ばたいていった。
「今のわたしにはあなたが一番のミステリーね」
オーガアイランドの上空へ向かうシャーリィエを眺めてさくらはそっと呟く。
小説を読み直す気にはなれなかった。
〜目を覚まさせろ〜
「イケメンがいないじゃーん、どこー?」
上陸した女性達は豆の転がる島を見回している。
「私だとただ痛いだけのようですが、効果はあったのですかね? シャーリィエ、とらわれの人達は何処にいるかわかりましたか?」
戻ってきた翼人に向かってウルクはてきぱきと行動を起こした。
今回船で一緒に来た人達が捕まってしまっては意味がない、早急にことを解決するべきだろう。
『あちらの洞窟に鬼たちは逃げていったでござんすよ。それ以外は人を見かけなかったのでやんすから、一緒にいるはずでござんすよ』
歌舞伎がかった口ぶりのシャーリィエはそう話し、二本の角が生えた鬼の目に当たる部分を指差した。
「上出来です。急いでいきましょう」
ウルクは手で印を結びつつ、呪文を唱えだす。
咄嗟に使える魔法は少ないため、確実性の高い詠唱つきの魔法を唱えた。
足元に魔方陣が浮かび、光りだしたかと思うとウルクの姿が一瞬で消える。
次にウルクの姿が現れたのはごつごつした岩場だった。
「実際に足を運んだわけではなかったので不安でしたが、シャーリィエが場所の状況をしっかり伝えてくれていたのでイメージ転移が無事できたようです」
ウルクは姿の見えないシャーリィエに向かって礼をする。
彼のいた世界では、忍びと呼ばれる異形に対して敬意を払うなんてことはありえないことだった。
そのために疎まれようとも彼は忍びとの接した方を変えることはない。
「ミカル、ヴィラ、イケメンお兄様とかいうものを探ってください、この中にいるはずです」
明かりをともす簡単な魔法を使って影を確保するとウルクは指示をだした。
すすっと洞窟の暗がりに沿うように一つの影が動き、ウルクの影からは人狼が姿を現し鼻をひくひくとさせる。
『こっちだ』
人狼であるミカルディアが先導し、ウルクはその後ろを警戒して付いていった。
何度か入り組んだ道を過ぎると、洞窟内部で明かりが見え出す。
「アジトですか‥‥」
ウルクが真剣な面持ちで呟くと声が聞こえてきた。
「3番と4番がキスをするー!」
「えー、困ったなぁ」
「貴方十分よろこんでるんじゃないの」
実に楽しそうである。
「一体何をしているのでしょう」
ミカルディアと、動いていった影であるヴィラメリアには見張りをさせつつ中を覗くと、ホスト倶楽部のような具合に角の生えたイケメン達が女性達と王様ゲームをして遊んでいた。
数日間すごしているからだろうか、疲労が顔などに浮かんでいながらも楽しい空気がそうさせるのか女性達は酒を飲んでははしゃいでいる。
「楽しそうに見える分、余計酷い光景ですね……」
10人という人数を倍はいるであろう鬼似(おにい)がもてなしていた。
ウルクは目を伏せてロケーションエリアを展開させる。
ぶわぁっとウルクの足元を中心に洞窟が新月の夜、北欧の町並みに変化した。
「すごーい、何? 手品?」
状況をわかっていない女性の一人が拍手をして笑う。
「今から彼らに豆を当てるゲームのはじまりですよ。さぁ、一緒に撒きましょう鬼は外!」
ウルクが颯爽と女性の前に現れるとイケメンに向かって豆を投げつけた。
『うぎゃぁぁ!?』
豆を当てられたイケメンはものすごく痛がり、醜い鬼へと姿を戻す。
「うそっ!?」
目の前でおきた光景に女性は驚いた。
百年の恋も一気に冷めるといった様子である。
「夢の時間は終わりですよ。皆さん、外へにげてください」
ウルクが呆然としている女性達に声をかけ、鬼と戦うミカルメドゥとヴィラメリアを除いた”忍び”達と共に北欧の町並みの外へと逃げさせた。
宴を楽しんでいた頃は恐らく素直に従わなかったであろうウルクの言葉に女性達はすぐに従い着の身着のままで走り出す。
薄暗い新月の夜に足音が響き、一人また一人の闇の中へと消えていった。
出て行った事を確認すると、ウルクは影へと指示をだす。
「無事助け出しましたから、少し懲らしめましょうか」
静寂を取り戻した町並みに断末魔の叫びが響き渡った。
〜割りとあっけなく〜
「なんだ、もう行方不明になっていた人達をみつけたの? 推理して探そうとおもっていたのに」
多くの女性達をつれて来たウルクをみつけたさくらは残念そうに呟く。
「鬼退治もしてきましたから、この島で悪さをすることはきっとないでしょう」
「そうだといいわ。そういえば、貴方の鬼は大丈夫だったの?」
鬼退治という言葉にさくらは思い出したかのようにウルクへと問いかけた。
「ええ、大丈夫ですよ。はじめに空からシャーリィエに撒いてもらった豆も勿体無いと今食べているくらいですから」
ウルクの言葉どおり、船を待つ女性達に見つからないようこそこそとはしつつも二匹の鬼は豆を拾って食べている。
「まるで鳩みたいね‥‥そうそう、日本ではね。年の数だけ豆を食べると一年いい年で過ごせるっていうのよ」
鬼が好き好んで豆を食べる奇妙な光景にさくらは少しだけ微笑を浮かべてウルクに節分の伝承を教えた。
「そういうものがあるのですか、所変われば言い伝えも変わるものですね‥‥しかし、そうすると私の忍び全てにいい年を過ごしてもらうためには三袋じゃ全然たりませんね」
ウルクがさらりと返事をすると、丁度迎えの船がやってくる。
「放課後の冒険もここまでのようね。平凡でありながら不思議な町へ帰りましょう」
「そうしましょうか」
二人は女性達を乗せてオーガアイランドから銀幕市へと戻りだす。
翌日にはオーガアイランドはその姿を消し、イケメンの鬼たちの噂も消えていた。
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クリエイターコメント | ギリギリとなりましたが無事完成しました。
なかなか特殊な設定であったため四苦八苦しつつもウルクさんや忍びさんの姿を書ききれていたのなら幸いです。
短いコメントとなりましたが、これにて失礼いたします。 |
公開日時 | 2009-02-24(火) 22:00 |
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